佐賀新聞掲載コラム日だまり-P6

■安全な住空間とは  掲載日2005.03.22

 今年は三月になっても寒い日が続く。寒くなると、住空間に対し外気温からの負荷を軽減するため、高気密高断熱仕様はありがたいと感じる。
 シックハウス法が施行され、高気密高断熱住宅もそうでない住宅も、二十四時間強制換気が義務付けられた。住空間の気密状態は、危険な状態だという。現在規制の対象になっているホルムアルデヒドに代表される揮発性有機化合物は、測定に時間もコストもかかり、個人で測定するのは難しい。
 閉め切った室内には、どれほどの有機化合物が浮遊しているか分からないのが通常。規制以前の新建材は、年月を経ても有機化合物の揮発性がなくなるどころか、室内の湿気を吸収することで、その揮発性が活発化しなくなることはないとデータは示す。
 人がシックハウス症候群になったとしても、その症状がさまざまであるため、シックハウスが原因だと判明すること自体難しい。飲食物、生活雑貨など、身の回りのものすべてが化学分質過敏症の原因となりうる現在、安全な住空間も自己責任で手に入れるしかないようだ。
 先人の知恵に学び、もう一度スローな空間づくりで身を守ることも必要ではないだろうか。 BR>(アルフデザイン代表 三原宏樹)

■田舎暮らし  掲載日2005.04.19

 松尾芭蕉の句に「よく見ればなずな花咲く垣根かな」というのがある。以前、仕事をさせていただいた南阿蘇村の住宅へ半年ぶりにお伺いする機会があり、半年間住まわれての印象をご主人にお尋ねした時の答えであった。
 五十代半ばのご夫婦はお勤めされていた会社の早期退職を決意されたころ、この場所をついのすみかに選ばれた。敷地は一心行の桜を遠くに見下ろし、阿蘇連山を一望できる標高四百?に位置する景勝地にある。
 仕事に追われ、慌ただしく生活していた時には気付かなかったことが、ここの暮らしでは毎日が感動と発見の連続だとおっしゃる。
 都市で長い間暮らしてこられたご夫妻にとって、田舎暮らしへの不安は少なからずお持ちだったと推測されるが、時間を感じさせない雄大な風景の中で、親しい友人を招きもてなす事、日常の何げない作業を楽しむ事、そんな生き生きとした暮らしぶりが会話の中から読み取れる。
 生活の中心にテレビはなく、薪ストーブの周りにみんなが寄り添いながら遅くまで語らい、会話を楽しむ。そんな当たり前のことさえ現在の日常生活の中から消えつつあることにあらためて気付かされた。BR>(アルフデザイン代表 三原宏樹)

■つくらない「まちづくり」  掲載日2005.05.17

 「佐賀の魅力は何」と佐賀の人に尋ねたとき、一番に返ってくる答えが、何もない街というのである。何もないというのは、新しいものがないということで、実は文化財級の価値ある古いものがたくさん残っていたりする。
 確かに、佐賀は都市化が遅れ、自然な原風景が数多く残っている。今では、そのことが逆に、時代の先端を走っているともいわれる。
 地域のアイデンティティーとは、その地域の持つ特有の地形や風土、そしてそこに住む人や生活を含む風景から発生するものであろう。
 そんな日常の景色こそが、ほかから見ると地域の魅力になっていることに、そこに住んでいる人ほとんどが気付いていない。これからの佐賀の本当の?まちづくり?は?つくらない?ことから始めるのが正解かもしれない。現在ある価値のあるものをそこに住む人が認識し、利用することが佐賀のアイデンティティーを守ることにつながるであろう。
 大正時代に造られた嬉野のシンボルである木造建築の古湯温泉は、間もなく解体されるという。今回の地震で解体に拍車がかかったようだ。このままでは、今後も佐賀を象徴する大切な歴史的文化遺産が佐賀からどんどんなくなってしまう。つくらない?まちづくり?の必要性を多くの人に分かってほしい。BR>(アルフデザイン代表 三原宏樹)

■助成金獲得講座  掲載日2005.06.14

 NPO活動やボランティア活動に対して、企業や行政が支援する数多くの助成金制度がある。最近では、たくさんのNPO団体が組織され、行政側も助成金を積極的に予算化するようになった。
 そんな助成金獲得講座が先日、iスクエアビルで行われ、そこで事例発表をすることになった。私の所属するNPOまちづくり研究所もこれまで、まちづくり活動を行うために二十件近くのさまざまな助成金を申請してきた。
 最初のころは、連戦連敗で助成金獲得はほとんどできなかった。大きな金額の助成金については、官制NPO組織(行政がかかわり組織されたNPO)らしき実績のない団体が急に現れ、行政で予算化された助成金を獲得してしまうという状況を感じ、落ち込むことも多かった。
 そんな逆境で、私たちのNPOは組織力や志が強くなり、メンバーもふるいにかけられたような気がする。
 ある時期から、私たちの活動は自分たちの会費と、したたかな活動意欲で助成金に頼らず、自らの力でできる範囲でやっていこうと割り切って活動することにした。 しかし、最近になって私たちのNPOも複数の助成金を頂ける状況になった。申請書の書き方が変わったとか、小手先の技術がうまくなったとかではなく、志を貫くことが大切なのだろう。
(アルフデザイン代表 三原宏樹)