佐賀新聞掲載コラム日だまり-P2

■♪酒蔵とジャズ♪  掲載日2003.11.04

十月十八日、小城の小柳酒造で、天山ものつくりグループ主催でジャズコンサートが行われた。会場は木造二階建ての古い酒蔵の二階で、百五十人は楽に入るほどの見事な空間である。
酒蔵の屋根を支える大梁(はり)は、曲りくねった松の丸太がそのまま使われており、その姿が、生き物のようにライトアップの中に浮かぶ。ステージ後ろの薄暗い部分に、幾つもの大酒樽(さかだる)が無造作に並び、この空間の歴史を物語る。
ステージの上には、墨で酒蔵ジャズの文字が掲げられ、和紙の手作り灯ろうでともされた酒樽の大きなふたのテーブルと足場板の客席が雰囲気を盛り上げていた。
演奏はニューヨークから来日したばかりの藤原清登率いるコントラバス、ピアノとドラムのトリオであった。彼らのステージは何度も聞いてはいたが、今回の酒蔵での音は少し違って聞こえた。それぞれの楽器のアコースティックな音と、酒蔵のダイナミックな空間の相性が良かったからであろう。特にコントラバスの低音の響きが、手に取るように聞こえたのは、初めてである。二時間予定の演奏を一時間以上もオーバーしてしまうほど盛り上がった。佐賀に残る歴史的な場所は、現在も貴重な財であると思った時間であった。
(アルフデザイン代表 三原宏樹)

■音と空間  掲載日2003.12.16

小倉出身のジャズベース奏者、井島正雄氏が先日佐賀市内のピアノトリオライブのため来佐した。彼は、昨年十月ニューヨークのヴァンゲルダースタジオで自分のアルバムを収録、また金子晴美やマルウォルドロンの日本ツアーで共演しているベーシストである。
ジャズ歴三十五年の彼の音に対する思いには、共感するものがある。彼は、音と音の「間」を空間に例えて話してくれた。
ジャズの演奏には、一定の法則があり、その法則の中で演奏を繰り広げる。多くの奏者は一つのメロディーの中に幾つもの音を入れたがる、しかし本当にきれいな響き、感動する音は、シンプルで単純な音のフレーズだと話す。音と音の間に空間を感じ、その空間が時間と共に流れ消えていく彼のベース音は、広い空間を感じさせ心地よく流れてゆく。
私たちの仕事でもまったく同様で、何か物足りないから、寂しいからといろいろ余計なもの付け足したくなりがちである。ごまかしのない表現を改めて教えてもらった。
(アルフデザイン代表 三原宏樹)

■コレクティブハウス  掲載日2004.01.20

昨年夏、NPOまちづくり研究所が主催したシンポジウムで、中心商店街への提案の一つに「コレクティブハウス」というのがあった。地縁、血縁ではない、他人同士が一つの屋根の下で、食事を共にしながら生活する。一定のルールを定め、お互いに独立した人間としてプライバシーを守り、尊重し合いながら生活し、新しいタイプの家族形成を行う、そんな生活スタイルである。
テレビドラマでもコレクティブハウスを背景としたものは多い。成熟した社会では、気の合う友人たちと共に暮らしたいとか、同じ趣味や目的を持った人たちが共同して生活するといった人生の選択肢もあっていいのだろう。
佐賀のような地方都市では、子どもたちが独立し、いなくなった大きく立派な家に、高齢者が一人で住まわれているケースも少なくない。また、昭和初期以前の住宅には、匠(たくみ)の技を残す歴史的価値のあるものも多い。そんな家の一部を改修し、安い家賃で、安心、安全な暮らしのために提供すれば、家も地域も人も潤うのではないだろうか。
(アルフデザイン代表 三原宏樹)

■古住宅延命プログラム  掲載日2004.02.24

古住宅延命プログラムとは、小城町にある築百三十年の解体される予定だった古い農家を手作業によって改築し、コミュニティー空間として再利用しようという、NPO「まちづくり研究所」が昨年三月から取り組んでいる事業です。
現在の住環境に対しての警告、啓もう、地域が持っている伝統技術の継承と振興の必要性、循環型社会促進の必要性などの社会的メッセージを含み、まちづくりという観点で大勢の人たちを巻き込んで行われています。
これまでに、県左官協同組合の協力による「左官土壁教室」、地域の子どもたちが大勢参加した「子どもものつくり教室」、この建物の壁土を土間にリユースした「土間三和土(たたき)教室」と、三回の一般公募型ワークショップを行い、二百人を超える人たちがこの建物を訪れ、手を加えて新しい命を吹き込みました。
このワークショップは一般公募の参加者で三月六、七日に開かれる「大工造作漆喰(しっくい)左官教室」で一区切りがつけられます。プログラムに込められたメッセージは、この建物が、今後ここを訪れる人たちに発信し続けるでしょう。
(アルフデザイン代表 三原宏樹)