佐賀新聞掲載コラム日だまり-P15


■情報化社会と犯罪  掲載日2008.05.20

 パソコンが普及し始めほぼ20年、携帯が普及し始め約10年、世の中の状況はめまぐるしく変化した。今や高校生の9割近くが携帯を持つ世の中だと聞く。
 コミュニケーションツールであるパソコンや携帯を介しあらゆる情報が飛び交う中、人の心の隙間を狙う犯罪が増えているのも事実である。
 5年程前、ヨハネスブルグから私の元に1通の電子メールが届いた。送り主の亡き祖父の財産を現在預けてある銀行から引出し、私の口座へ一旦移して欲しいと言う内容で、そこには膨大な金額と謝礼も記述してあった。家族を助けて欲しいので来て欲しいという文章だ。
 不信に思い調べた結果、そのような詐欺、誘拐がひとつの産業として存在していた事が解り、実際に誘拐された日本人被害者が要る事も解った。
 人は、ある情報に対し運命的なチャンスだと錯覚に陥る事がある。便利なコミュニケーションツールが普及したと同時に、縁がないと思っていた危険な環境も、手の届く所まで近付いてしまった。
 そんな危ない社会状況に居るという心構えが今必要なのだろう。
(アルフデザイン代表 三原宏樹)

■ハコづくりから魅力創出へ  掲載日2008.04.22

 熟成した社会に本当に必要なものは何だろう。採算の取れない余計なハコモノは必要無いであろう、しかしなにもしない地域は、経済が沈み人も街も元気をなくし、その地域の存在自体すら危なくなる時代だ。
 私達の住む地域には、その土地の風土と共に場所特有の歴史や文化が数多く残っている。
 多くの人は、美しい景色や景観は、当然のようにいつまでもそこにあるものだと思い意識すらしていない。実は、その景観も手間と時間をかけ皆で育み守っていく必要がある。残念な事に、気がついた時には多くの魅力的な景色が無くなってしまっている事も多い。
 地方都市が地域の魅力づくりに力を入れ、今となっては消滅してしまった美しい景色や、まだ残っている景観資源の再生を、事業として捉え、そこに住んでいる市民に託し地域住民に還元する形で行なえば、その地域の大勢の人が元気になれるだろう。
 しかしその景観に価値を見出せない住民も大勢いる事も事実で、壊さないためのルールづくりや啓発活動も同時に必要だ。
 足もとに沢山の地域の魅力が残っている。その魅力を活かすも殺すも実は市民である。
(アルフデザイン代表 三原宏樹)

■文化と地域づくり 掲載日2008.03.25

 文化と言う言葉が行政庁の何処に位置しているかを見ることでその地域の文化レベルを知る事ができると聞いた事がある。文化の捉え方の違いで、教育の下にあるべきなのか、教育の線上でなく地域の魅力づくりや観光の資源と捉えるかで大きく違ってくるのであろう。
 佐賀には私達が気がついていない所に貴重な文化遺産が沢山眠っている。先月イギリスから来佐され川副町の三重津海軍所跡を視察された世界遺産の権威者スチュアート・スミス氏は、近代日本国の幕開けとして三重津海軍所跡が世界遺産となれる価値がある、と指摘された。壊されようとしていた佐賀美術協会創始者である山口亮一の旧宅は、市と市民の力で蘇り、その武家屋敷では毎年彼の人物顕彰展が行なわれてきた。今年はそこから佐賀の近現代美術アーカイブを作成しようと有志達が動き始めている。
 文化は地域を蘇らせ人を元気にさせる潜在力を有する。文化を認識する事は同時に生活を楽しむ事だ。地方都市の佐賀こそ地域の文化を大切に育み、佐賀の魅力を認識する必要がある。文化とは地域づくりの上に位置すべきものなのであろう。
(アルフデザイン代表 三原宏樹)

■豊かさの価値基準  掲載日2008.02.26

 大量消費社会でのたくさんのモノにあふれた生活は本当に豊かなのだろうか。感性豊かな多くの女性たちは、高価なブランドバッグや服など、本質的に良いモノを持ちたがり、そのモノに愛着を持ち末永く使おうとする。私も仕事上家具を提案する際には、少々コストが上がっても長く使える本物を選ぶことを勧める。
 古い建物には木、石、鉄、土など身近にある本物の素材が、建具、床、壁、天井などに贅沢(ぜいたく)に使われている。これらの素材をいかしリニューアルされた空間は、歴史的な深みのある雰囲気を醸しだし魅力的で興味深いものだ。  しかし大量消費時代の産物であるいわゆる新建材、木目や石模様をプリントした合板などで構成された空間は、三十年もすればリニューアルできない大量のごみの山を作ってしまう。
 二十世紀後半から半世紀足らずの間に大量のごみを生産してきた現代社会。それらに囲まれインスタントな空間で暮らしてきた私たちの世代は、本当の意味での豊かさの価値基準を見失っていたのかもしれない。
 地球温暖化阻止が叫ばれる中、もう一度豊かさの価値を見直し、本物を長く使う、良いモノを大切にする文化を定着させることの必要性を感じる。
(アルフデザイン代表 三原宏樹)