佐賀新聞掲載コラム日だまり-P11

■IT技術と地域の活性化  掲載日2006.06.27

 人ごみの群集の中から突然、会いたい人が目の前に現れる、また迷路のように複雑な場所でも標識に頼らずピンポイントで探し当てることができる。数年前まで考えられなかった事がケータイ一つで可能になった。そんな世の中である。
 ここ数年のIT技術の発達は凄(すさ)まじく、利用者を置き去りにしたまま進化し続けている。そして、今まさにケータイによって、仮想空間と現実の空間が繋(つな)がりだした時代といわれている。
 インターネットのバーチャルな空間に実際の場所が地図で示され、その場所に時間軸が設定され、かかわる人や物、その他の情報が集積される。そしてQRコードを利用する事で、実際に訪れた場所で欲しい情報を簡単に知る事が可能になる。そうした実験的な試みが至る所で実際行われている。
 IT技術はこれからの地域の活性化のために必要不可欠なツールである。IT技術によって人も街もフラットになり、権威だとか象徴といったものの意味がなくなってきた。そんなヒエラルキーのない社会をスーパーフラットという言葉で表現される。
残念ながらこの現実を認識したくない人たちがまだ大勢いたりする。こんなことが今後の地域の在り方を左右する原因であったりするのもまた面白い。
(アルフデザイン代表 三原宏樹)

■危ない地方経済  掲載日2006.07.25

 昔は、田舎の大きな建物といえば、役場と病院と建設土木会社のビルであった。どれもが国から落ちる保険や税など交付金の産物である。
 最近、国からの交付金が切り詰められ、佐賀でも複数の建設会社が消えてなくなった。有床病院は解体され診療所に変わったりしている。
 景気は上昇しているといわれるが、日本経済中心地東京の話で、今や地方は破たん寸前である。談合や天下りなど、税の無駄遣いを切り詰めると政治家は言うが、ある時期、地方では必要悪として経済を支え、上から下まで一気通貫の構造ができてしまった。そして談合させない公共工事に戸惑い、いまだに抵抗を続ける業界がある。箱物を造り続ける行政がある。
 来年は団塊の世代の方々が就労年齢を卒業してしまう年である。地方が破たん寸前の厳しい時代に多くの人たちが仕事しなくなる事は、地方の収入がさらに激減するのである。
 アメリカで、地方の経済格差が大きくなり、貧しい地域から多くの若者が志願兵として集められイラクへ派兵させられる映画を思い出す。もしかして日本も有事に備え、そんな状況をつくり出そうとしているのだろうかと疑いたくなる昨今である。
(アルフデザイン代表 三原宏樹)

■和蝋燭と梧竹  掲載日2006.08.22

 山口亮一旧宅で、中林梧竹人物顕彰展が先月さが文化遺産研究会代表大塚清吾氏の企画にて行われ、二十二日夜に梧竹研究の第一人者である日野俊顕氏の解説で、三日月梧竹堂、小城梧竹記念館などの協力のもと、和蝋燭(ろうそく)による梧竹の書鑑賞会が行われた。
 普通は資料館でガラス展示ケースの向こう側の人工照明による上からの光で鑑賞するのであるが、今回は築二百年を超える武家屋敷の床の間に二本の大きな和蝋燭を置き、その揺らぎのある下からの赤い炎で書を鑑賞した。
 日野先生は、こうしてみると梧竹の書は三次元空間に浮かび上がって見えると解説された。軸に書かれた文字が軸から飛び出し、蝋燭の炎で踊っているように見えるのである。聞き手として参加いただいた洋画家の金子剛氏は、梧竹はピカソやセザンヌと同世代を生きた人なので、どこかでキュビズムや光の表現法などを知り、書の技法の中で実践しようとしていた可能性があると解説された。
 日本の美術を和の空間で鑑賞することが昔は普通のことであっただろうが、現在では、それがそのまま感動に値するという貴重な経験であった。
(アルフデザイン代表 三原宏樹)

■家づくり絵本  掲載日2006.09.19

 家づくりの絵本をつくることになった。「絵から始まる建築」というタイトルである。ものづくりの基本はスケッチやイラストなどの絵を描くことから始まる。頭の中でイメージしたことを、早く消えないうちに表現し形を整え、寸法を与え、模型を製作し、あらゆる角度から検討し、実際のものを創(つく)る。そんな作業が必要である。
 現在では、ゼロからものを創るといったことをしなくなったように思う。百円ショップに代表されるように、ものが溢(あふ)れている現在では創意工夫をして、ものを創る必要がなくなったのかもしれない。
 知人から佐賀で、創作バイクのコンテスト世界一になった人がいると聞いていて、そのことが記事になっていた。美しいものや人に感動を与えるようなすてきなものは、簡単にできるわけでなく、何度もスケッチや試作を繰り返し創り上げた結果であろう。そこには、熟練した技能や経験とセンスが不可欠である。
 やってみたいからといって、まねのできる世界ではないのではあるが、そんなものづくりの喜びや達成感のようなことを絵本にできないだろうかと挑戦してみた。普段の仕事と違うので、少しのめり込んでしまった。
(アルフデザイン代表 三原宏樹)